作品の閲覧

エッセイ・コラム

量子コンピュータ

松浦 俊博

 量子コンピュータの計算法開発の仕事に息子が携わっているが、私には何をやっているのかさっぱりわからない。それも寂しいので、暇にまかせて一般人向けの入門書をパラ読みしてみた。

 コンピュータの処理能力を向上するために、回路素子の集積度は驚異的なペースで上がり続けてきた。近年では素子の寸法を原子サイズの数十倍まで小さくすることができるようだ。素子の大きさが原子中の電子の波長に近づくと電子が素子から漏れ出す確率が高まるので、これまでの技術の延長では処理が困難になる。新しい計算原理が必要になり、その一つが量子コンピュータである。

 量子コンピュータは、寸法がナノメートル以下のミクロな原子や電子を使用して、そのエネルギーや電子のスピンなどを利用する。人工的に用意した二つの状態間を、電磁波の吸収や放出を伴って遷移させることができれば素子として利用できる。この技術は実用化にあと一歩のところまで迫っているようだ。
 従来コンピュータの情報基本単位であるビットが0か1の確定値であるのに対し、量子コンピュータのビットは量子状態/0>と/1>の重ね合わせである。/0>でありながら同時に幾分かは/1>でもあるという不思議な状態であり、観測することで初めてどちらかに確定する。この状態は、波を想像すれば実感できるかもしれない。デジタルというよりアナログの特性に近い。現時点では、動作の単純なデジタル方式の従来コンピュータの方が優れている場合も多い。しかし、人間の脳のアナログ的な並列処理機能を究極目標と考えれば、量子コンピュータはそれに少し近づいているように思える。

 我々の日常はマクロ世界にあり、物質を実在する何かのかたまりのように考える。ミクロ的には、多数の波が重なり狭い範囲に集中しているような状態であり、観測した時にかたまりとしてどこかに見えるということらしい。
 ミクロ世界の物質や現象は、人間の想像できる範囲を越えており直観でイメージできない。まさに仏教の教えにある「色即是空」つまり「固定的な実体が永遠に存在しない」の本質ともいえる。

 注記:1ナノメートル=10-9m、コロナウイルスのサイズ=10-7m以下

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧