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エッセイ・コラム

目に見えるもの(その3)

松浦 俊博

 先月の投稿作品に、目に見えるものは網膜像ではなく脳により知覚される像であることを書いた。脳の知覚機能に興味を持ち調べ始めたが、実に複雑で私にはとても理解できない。しかし、せっかく時間を費やしたから、わかる範囲で整理してみる。
 視覚情報のおおまかな流れは、目から入った情報が視床を通り後頭葉の視覚野から分割されて大脳皮質の関連部位に送られる。情報は脳のいろいろな部分で分析されて側頭葉で認識される。

 脳による視覚認識機能の代表的な例を挙げてみる。まず、到達運動機能。これは肩や肘の関節を動かし、手先を目標位置に移動する運動である。必要な目標位置は、状況や目的に応じて外部空間や体のどこかを基準点に選んで定義される。位置情報は大脳の頭頂葉で統合処理されて、運動指令の生成と制御は前頭葉のネットワークにより行われる。さらに運動の調節・学習・適応には、小脳や大脳基底核が関わっているらしい。脳の多くの部位が関連している。
 次に、眼球は頻繁に動いているのに見える映像はぶれずに安定する機能。急速な眼球運動の際には網膜に写る像は激しく揺れ動くが、その動きの知覚が抑制される。視線を移動するためには脳から眼球運動の指令を出す。その指令信号を使って網膜像の変化量を予測し補正処理をすると想像される。しかし、実際の眼球運動は指令信号と一致しない。そのずれの処理が視覚安定の鍵になる。眼球運動時に後頭葉視覚中枢において、神経細胞活動の抑制と興奮が短時間に目まぐるしく起きることが発見された。これにより視覚を安定化させるメカニズムが解明されたそうだ。

 大脳皮質の神経細胞の数は140億個くらいあり、中枢神経全体の神経細胞の数は1000億個以上あると推定されている。これらの神経細胞が複雑なネットワークを構成し相互に作用しあう凄いシステムを想像すると、人間は出現から25万年以上の長い期間をかけて進化したことをひしひしと感じる。

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