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エッセイ・コラム

紅葉を追って―曼殊院から修学院へ

藤原 道夫

 叡山電鉄の修学院駅に降り立ち、白川通りから曼殊院道に入る。なんの変哲もない住宅街の小幅なだらだら坂道をしばらく行くと、左手土盛りの上に「右曼殊院 左鷺森神社」と彫られた石の道標が見えてくる。右(ほとんど真直ぐ)にすすむ。
 石垣の上に築かれた高い土塀に突き当たる。内側から鮮やかな紅葉の枝がはり出し、独特の風景をつくっている。ここが曼殊院門跡、石垣を大回りして中に入り建物内部と庭園を見学。門跡寺院だけあって、雅な雰囲気が漂っている。紅葉の木は多くないが要所に植えられており、鮮やかな赤と白砂とのコントラストが印象深い。
 道標まで戻り、鷺森神社へ。この辺りはいつも人影が疎らだ。ゆるい坂道の参道は両側が高い楓の並木で紅葉のトンネルを作っている。ここで美しい紅葉を見た覚えがない。木が高いせいか、紅葉の色あいがまちまちだったのか、あるいは陽の当たり具合がよくなかったせいかも知れない。
 神社の脇から北側に出る細い道をたどり、コンクリートで固められた音羽川を渡って住宅街をすすんでゆくと、右手(東側)の家並みが途切れて田畑が拡がり、棚田の奥に伏せ鉢状の御茶屋山を真正面に見渡せる所に出る。この辺りの田畑は修学院離宮の一部で、高い鉄柵が設けられている。よく見ると木立の間に林丘寺を含む中御茶屋の建物群の屋根が望める。そこから真直ぐに松並木が左手(北方向)に延びているのも分かる。ここは何度も通ったが、ある年の11月末午後2時半頃に見た風景は忘れ難い。透明な空からふりそそぐ陽の光が御茶屋山全体を輝かせ、山が燃えているかのようだった。紅葉は左手比叡山の尖った頂上が山間に望めるあたりまで続いていた。あのような見事な紅葉には他所で出会ったことがない。しばらく立ちつくして眺め入った。
 また住宅街をすすむとすぐに修学院離宮の表門前の広場に出る。参観許可証を提示して中に入る。離宮の静謐な雰囲気があたりに漂い、別世界に来たような気分になる。いつもは狭い待合室でビデオをみながら案内を待つのだが、周りの紅葉に目をうばわれ外で立ったまま待つ。楓の紅葉の色あいは、木の種類もあろうが、それぞれの木による違いもあるようだ。ある木は黄色が目立ち、別の木は鮮やかな紅葉におおわれる。黒みを帯びた葉もあれば、紅葉の先端が枯れてちりちりになっているのもある。これらの状態はその年の気候によって微妙に変わるのだろう。様々な紅葉が下御茶屋の前庭まで続いている。これから下、中、上と三つの御茶屋を見てまわる。今年の紅葉はどんな具合だろう。

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