『それから』(全編)
本の紹介
主人公・代助は次男である。父と兄は富裕な実業家。自身は卒業後も就職の意思がない。実家の支援を受けつつ別に居を構え、気ままな生活を送っている。
代助の親友・平岡は卒業して銀行に就職した。彼は一年後、代助と平岡の共通の友人だった人の妹(三千代)と結婚する。代助はその前から三千代が好きだったが平岡に先に告白され、譲るばかりか自分がとりもって結婚させた。平岡夫妻は京阪の勤務に赴くが、不幸にも生まれた子が死亡し、三千代も心臓を悪くする。三年後、平岡は、部下の公金使い込み問題に関連して辞職させられ、肩代わりの負債まで背負って性格に影がでる。東京に戻ってきて代助を訪問し、就職を依頼する。
代助は、生活に困窮する平岡・三千代夫妻のために金や就職を兄や兄嫁に相談するが断られる。「金に不自由してないようで、大いに不自由している」自身に気づく。
平岡は結局三流新聞社に就職する。代助は、三千代と会う機会を重ねるにつれ、三千代の境遇に同情し、「気の毒」になる。三千代は経済的なだけでなく夫婦間も殺伐としていたのだ。そして彼女を昔同様に愛していることに気づく。
思い悩んだ代助は、三千代を自宅に呼び「ぼくの存在にはあなたが必要だ。どうしても必要だ。ぼくはそれをあなたに承知してもらいたいのです」と初めて愛を告白する。三千代も同意のようだ。そこで、父を訪ね、父から勧められていた結婚話を断り、父子の間は冷え切る。
然るに、肝心の三千代が卒倒、看護する亭主に病床で、謝らねばならないことがあるので、代助のもとに行ってくれと、平岡にせっつく。
代助が、正直に三千代との経緯を語って謝罪し、譲ってくれるように懇願。
その場では冷静に応じた平岡だが、代助・三千代の関係を代助の父に手紙で知らせる。
ある日、兄が代助宅を訪問、前述の手紙を見せ真偽を問いただす。素直に答えた代助に返ってきたのは父と兄からの義絶の通告だった。
焦った代助は職探しのために家を飛び出す、狂気の様相で。
作品の背景、読後感想など自由記述
①この小説のメインテーマは何だろうか。文壇の代表的意見を列記。
- イ.恋愛小説
3年前の抑えられた恋愛感情が再会して燃え上がった。 - ロ.家族制度(結婚)と自然愛(恋愛)の狭間に落ち込んだ男女の悲劇
-
- a姦通問題を取り上げたとする意見
- b女性の地位を問題視した 〃
- ハ.時代の変化の中で生まれた「モラトリアム人間」の生態と悲劇
- ニ.日露戦争後の日本の変貌になじめない代助の、新時代への抵抗感
- ホ.家庭や社会に「居場所」の見つけられない人間とそれを作り出す社会
- ホは 首藤意見。 ニ、ホも総合して
②これまでの解釈例(参考になったもの)
- イ.代助・三千代が長い間抑制していた恋愛感情を解き放ち、家族からも世間からも指弾されることを覚悟で結びついた。
- ロ.一方、代助は三千代を本当には愛していなかったという意見。
- ハ.「モラトリアム人間」代助に関しては二つの見方。
-
- a折角感情を抑えつけて手に入れたモラトリアム生活が三千代の出現で邪魔されるのではないかとの畏れから、じっとしていられなくなった。
- b長いモラトリアム生活がもたらすある種の不安をぬぐうため、三千代への愛を無意識のうちに作り上げた。
- ニ.男同士の義侠心と恋愛感情
友人に義侠心から恋人を譲るという設定がそもそもなじめない。27歳にもなって。江戸時代の浄瑠璃・歌舞伎仕立てのようだ。 - ホ.三千代の心理、感情があまり描かれていない。代助の内面の描写が中心とはいえ、男女問題なら女性側の心理描写も重要なはず。
- ヘ.代助は再会した後に三千代への愛を膨らませたように読めるが、一方で3年間も結婚話を拒んできたのは三千代の存在のためと告白した。ストーリーが不自然。
- ト.男女問題にしては理屈が勝ちすぎて、なめらかさがない。
- (ヘ、トは首藤意見)
③読もう会の議論
イ.この小説のテーマ
- A氏
- 明治期の不倫、男女問題
- B氏
- 当時の常識に対する抵抗を試みた
- C氏
- 「家」制度に対する反発
三千代は代助一家に相応しくない=結婚できまいと代助は分かっていた。
それで平岡に譲った。 - D氏
- 家督相続人のスペアとしての代助、家で飼われているやるせなさ
漱石の小説には「家制度」の雰囲気が濃厚 - E氏
- こういう生き方もあるよ、という紹介。教訓的小説ではない。
ロ.代助論
かなりの人 代助否定論。
- F氏
- このまま政略結婚させられるよりは、恋に走ってあとは何とかなる。
→代助を肯定的に受け止めたい。 - G氏
- 武家社会は本来が高等遊民。その流れの明治知識層には「働かねばならない」という意識は乏しかった。代助を非難しすぎるのはいかがか。
- H氏
- 三千代は代助を兄の代わりように思っていたのでは。それで彼が推薦する平岡との結婚にも応じた。
- I氏
- 「ナルシスト」代助 漱石は、自分にはない肉体的美点を作品で表した。
ハ.三千代論
- J氏
- 指輪を質にいれたので、はめてないのを態々見せたりしていやらしい。
好きになれない。 - K氏
- 近代的女性像
- L氏
- 強い女性
ニ.その他
- M氏
- 漱石の作品はストーリーよりも描写力がすごい。