『蘆刈』 谷崎潤一郎
本の紹介
昭和7年作の短編小説。作者の代表作の一つ。
京都の山崎から水無瀬にかけては、桂川、宇治川、賀茂川、木津川などの有名河川が合流し淀川となって流れ下る。この淀川の中州を舞台に、夢幻能の様式を借りつつも現在の男女問題を扱っているユニークな作品。
男1人に姉妹の、いわゆる三角関係の物語ではあるが、普通に考える三角関係でないところが大谷崎らしい男女小説。短編ゆえ、あらすじはあえて載せず、読まれることをお勧めする。
読後感想、討論
- 現在―過去―現在 の構成が面白い。耽美主義の観点からこの構成が生きている。
谷崎らしいエロスも随所に散りばめられている。
谷崎の足フェチもうかがわれる。 - 自分はストーリーよりも作品全体が醸し出す雰囲気が気に入った。特に出だしの水無瀬のあたりや後鳥羽院の追憶などが物語の厚みを増している。
- 水無瀬から文化が東西に分かれるのは、自分も京都に住んでいたので実感として分る。
- 前半部分は雰囲気が出ていた、は大勢の意見だった。
- 物語に還るが、語り手の「子」とその父親の「慎之助」は同一人物だと思うがどうだろう。夢幻能の世界だからそれも認められてよいのだろう。
- そうですね。ただ、能の世界を借りて現在の男女問題を扱っている訳だが、成功していないと自分は思う。
- この男女の3人の関係はなるほどと素直に納得できない。奇妙な恋愛感情ですよ。気持ち悪くさえある。