『あ・うん』 向田邦子
本の紹介
作者の代表作の一つ。登場人物は明治末年~大正後半生まれ、時代背景は昭和10~12年頃。大正ロマンが過ぎ、戦時色が日増しに濃くなる時代の東京が舞台。作者の自伝的雰囲気も漂う。そこで男の友情や友人の細君に思いを寄せる門倉のプラトニックラブ、細君「たみ」を初め女たちの生き様、非戦の願いなどが綴られている。 戦後高度成長時代のアンチテーゼとして、金勘定を離れたところの人間模様を描きたかったのでは、というS氏の読後意見に同感する声が多かった。
読後感想など
①男の友情について(水田、門倉)
- 軍隊生活を通して育まれた友情について:経験者がいなくて議論が浅かった。
- 水田は門倉に何を与えているの? 貰ってばかりなのでは。
→そこがこの作品の重要な点。物質的にギブ、テイクという友情ではない、聞いてやる、云ってやるだけで友情は十分に成り立つことを訴えていると思う。
→性格や暮らしぶりが違うから魅かれ合うこともあるだろうね
②登場する女性陣について
- 細君「たみ」の良さは?
→三角関係の危険をはらむ状況での出処進退のきれいさ。
→明治の女らしい。普段は控え目だが、いざという時の潔さ、決断。(多数の声)
→賢い女房すぎて好きになれない、の声も。 - 娘の「さと子」の目を通して語られる場面が随所に、これはすなわち作者自身。
はっきり言わない、動かない親世代に対する懐疑が述べられている。
③非戦の願い
ストレートではないが垣間見える。昭10~12頃は悲壮感はまだ深くはなかったか。
④作品全体
- 登場人物を「型」にはめて描いており女性作家らしい。(女性の意見)
- 「門倉」の描写は破たんしていないか。「たみ」への長年の思慕と女性への手癖の悪さがアンマッチ。
- ここからが重要なシーンという時にお笑いにして逃げているのは残念、やはりホームドラマ的に仕上げている。
- 百円札が度々登場して面白かった。今換算すると二千倍くらいか。
門倉が塩原温泉まで円タクで駆けつけるがざっと見積もると、150キロ、約3万円。
当時のタクシーは安かったことが分かる。 - 電球に靴下を入れて縫物、マキで風呂を焚くシーンほかやはり懐かしいの声も。