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何でも読もう会

『五重塔』幸田露伴

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本の紹介

 露伴が漱石と同い年、という驚きから始まった。その文体の違い、まるで江戸文学を読んでいる雰囲気。露伴24歳の作
 文語調の難解な漢語も頻出、同じ日に読んだ向田邦子『あ・うん』とは趣を異にする。しかしじっくり読むときわめて名文。五重塔の建立がなり、お披露目という前夜に大暴風雨、あわや!というクライマックスシーンをNさんが朗読、名調子に拍手が起きた。ネクラ、偏屈な主人公・十兵衛とナイスガイの大棟梁・源太の塔建立をめぐる対立、心理的葛藤をめぐって、十兵衛、源太それぞれの応援演説が面白かった。

読後感想など
  • 文中、マル、テン(句点、読点)があるが、原文はどうだったのか?
    →原文にも使われている。マル、テンは明治20~30代に徐々に広がったようだ。
  • この五重塔はなんどか焼けている。作品は1791年再建のものだろう。
  • 一口にいうと東洋的倫理主義に根ざしている作品。
    江戸文学の延長ともいえる。
  • 冒頭、源太宅で女房が一人長火鉢にあたるシーンが銭形平次を彷彿とさせた。
    しかし火鉢の材質、木目の美しさなど棟梁の屋敷の雰囲気を醸し出している。
  • 「職人気質」は万国共通。十兵衛のような偏屈で人付き合いの悪い、一途な者が大きな仕事をしでかすのは今でも同様。ブレークスルーは大体この手の技術屋だ。
  • しかし、医農薬の試験のように、大人数が手分けしてやらないとできない分野もあり
    十兵衛には限界がある。
    (このあたりから十兵衛派、源太派に分かれて応援合戦。 詳細 略)
  • 中野好夫は、この作品は善と悪の対比ではなく、正と正だといっている。強いていえば朗円上人が一番俗物だ。その通りだろう。
  • 最後のくだりで上人が「十兵衛これをつくり 源太これをなす」とあるが「なす」とは何だろう。
    →十兵衛が現場監督で源太がプロジューサーではないのか
    →違う。源太が十兵衛に譲ったことを婉曲にいっていると思う。

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