『暗室』吉行淳之介
本の紹介
作者の代表作の一つ。1970年発表。 谷崎潤一郎賞受賞作
主人公は小説家。時代は70年安保、日本経済の爛熟期。主人公は40歳半ばというから作者自身の生い立ちが投影されている。
主人公が色々の女性(20歳台)と性的に交わっていく経過を淡々と描く。物語としての展開は殆んどない。登場人物も主人公を含めてキャラクターが薄い。
主人公の底流にあるものは戦争末期の応召と空襲での悲惨な体験。作者の体験でもある。その傷跡を負って生きているため「ついでに生きている」との心境だ。そして女性との性的関係にのめり込むのだが、これも淡いものでしかない。
時代の節目などで挫折した人が味わう「喪失感」が主人公にはつきまとっている。
読後感想など
①文章の良さ
うまい。プロの文体。純文学性を感じさせる文章。 と好意的意見あり。
②純文学とは何だ
エロ小説との違いについて種々議論。結論出ず。
③性描写から見えてくるもの
- 深みはない、淡々と描いている。
谷崎の方が粘っこい。こっちは無駄な部分が多い。 - 男と女は絶対に分かり合えないという主張は感じる。
一方で自慢話にも聞こえる。 - 作者は本当は女嫌いだったと思う。女の家族に囲まれて。
- 現在の男女の精神構造とつながっている気がする。
④「ついでに生きている」は?
- 戦争に生き残ったという罪悪感があるか?
- 作者だけが極端にひどい体験でもあるまい。これを言いだすと納まらない人は大勢いるよ。
- 子供ができることを大層怖がっている。そのくせ性交渉はやめられない。享楽主義といわれても仕方ない。
- ポジとネガを両方描きたかったのかも。
しかしネガしか見えない。
否定的意見が多かった。