『野火』大岡昇平
本の紹介
大岡昇平の代表作。1952年(昭27)創元社より刊行。太平洋戦争末期に日本軍はフィリピン・レイテ島において極めて大きな人的犠牲を払わされた。この小説は、この島に取り残された敗残兵の極限状況における物語である。
作者もほぼ同時期に召集されてフィリピンに着任、この戦闘の酷たらしさを最前線で体験している。
読後感想など
- 冒頭、Sさんが用意したレイテ島の地図で、主人公たちの行軍(敗走)ルートを確認。
-
「野火」の意味するもの――最後まで議論に
➀誰かに敗残兵の自分が常に見られている感じ――それを野火が象徴している。
②野火とあるが実際は「煙」の立ち昇りが主だろう。現地人の生活と存在を象徴しているのでは。
③さらに大きな意味での「人間の存在」を象徴しているのでは。
④自然と人間の営みを神から見られているのでは。 等々の見方があった。 -
宗教、特にキリスト教が背後にある点
➀宗教的禁忌と人間の本源的欲求をどうとらえるかという問題をこの小説は真剣に問うている。
②途中、主人公が命がけで教会らしきものの正体を探りに降りていくシーンがある。
今の話でなるほどと思うが、違和感も残る。この限界状況で何を今さら・・・。 -
極限下での意識構造
➀極限下で冷静に自分を見つめるシーンが何カ所かある、少し違和感も。
②ベルグソンがあそこで主人公の意識に出てくるのは変だった。
③おそらく、主人公=作者の意識・行動を後ろから別の主人公が客観的に見つめる手法なのだろう。
④右手と左手
生理(右手)と理性(左手)の葛藤のシーンが印象的だ
→おそらく、それが作品の主題だろう。単なる戦記物であるはずがない。 -
カニバリズム
➀人間はなぜ人間の肉を食べてはいけないのだろう?
②カニバリズムとよく言われるが、この作品に登場するのはそれではない。
カニバリズムは人肉喰らいが常態化している集団のことだ。
③死を覚悟している主人公なのにここまでするものか。
③鳥取城、会津戦争、インパール、近年ではアンデスの飛行機事故など、例は多い。
緊急時の人肉喰らいは案外ハードルが低いのかも知れない。
④しかし、空腹感・飢餓感はそれほど出ていなかった。
⑤海水を飲むシーンはリアルだったよ。 -
映画(塚本映画)
➀画面は迫力あるがつまらなかった。
→内面の心的描写が大事な作品だけに映像は難しかったか。 - 終章の扱い
➀復員後、病院での生活や意識の描写がかなり長く続く。ここの意味が分からない。
②終わらせ方がまずかった。(この感想は多かった)