『砂の女』安部公房
本の紹介
作者が小説家として充実期を迎えたころの代表作の一つ。『壁』(‘51)、『砂の女』(’62)『他人の顔』(‘64)、『燃えつきた地図』(’67)などを次々と発表、日本の小説にはなかったシュールリアリズムによる作風で一世を風靡した。いずれの作品も非現実の設定であり、逆に寓話に富む。読者には解釈や着目点が一様でなく、当日も議論に花が咲いた。
読後感想など
- (設定場所)
- S市にある砂丘とはどこか? でスタート。浜松あたりの意見もあったが文中に貧乏県、雪、寒いなどがあるので、日本海側だろうが多数意見。(実は作者が証言しているのだが、ここではあえて伏せておく)
- (主人公の男の生活)
- 都会で教職にあるが、妻とはうまくいかず、同僚ともそれほど
つきあい無く、生徒への愛情・熱意もなく、唯一の楽しみは昆虫採集。新種を見つけて自分の名前を残すことにやりがい、という普通の人。極端なキャラではない。
理科の先生だろうな、で意見が一致。 - (主人公の女)
- 男の主人公を主軸にしているので、生い立ち、何故砂穴の生活に、などは語られない。男の相手役という感じなのだが、ではなぜ「砂の女」なのかで議論に。
- (設定期間)
- ある8月~翌年の6月 と追えるから1年弱を描写。それからいきなり7年後の失踪宣告になるから、この間に男と女がどうなったのかは読者の想像次第。
- (小説の主題、副題について)発言順
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- ⓪この女は自分自身の投影だと思った(女性の意見) 状況は極端な設定だが、自分の人生と重なって見える。
- ①自由とは結局何なのだ?
- ②女と男の関係
- ③天から見ると都会の生活も砂の生活も似たようなもの せっせと砂かきする中に女の意味、人としての意味
- ④砂は社会を表わしている。さらさらもあるが、目詰まりもある。
- ⑤希望へ 砂は乾いた邪魔者だったはず。ところが水が近くに上がってくるのを 発見。希望へつながっていく。
- ⑥日常の小さな中に幸せを探そうとする一つのテーゼ
- (議論が決着せず)
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- ①男は女を愛したのか? 両意見に分かれた。
- ②男と男だったらどうなった?
アダムとイブの昔より男と女だろう。人間の根源の問題からそれてしまう。 - ③表紙の裏にある一行「罰がなければ、逃げる楽しみもない」の「罰」とは?
分るようで説明できない。 - ④衆人環視のセックスを強要されるシーンは何を意味? 意味不明が多数
- (文章の問題)多数が高い評価
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- ①女への比喩が17種類あった。いずれも短くて的確。 (よくぞ数えました)
- ②比喩表現を一枚にまとめ、披露した人も。 (これも労作でした)
- ③極力ひらがなを使って読みやすい工夫。
- ④短い文章なのも読みやすい。