『等伯』安部龍太郎
本の紹介
安土桃山時代に活躍した絵師・長谷川等伯の一代記。2011~2012年に新聞小説で連載、その後単行本として出版、2012年度の直木賞受賞作となった。
等伯は昭和の初期まで全く無名であり、そのため絵画作品を除くと資料に乏しく、長男の久蔵と混同されたりしていた。作者はその中で等伯一家の絵画や敵対する狩野派の絵画を中心に据え、更に等伯が信仰した法華経と禅の世界をも考察してこの大作を仕上げている。
読後感想・議論
- 等伯の出身地能登半島・七尾から敦賀、京、堺、京と遍歴する足取りを地図で確認。
- Hさんが、等伯作品集(朝日グラフ)を持参、全員に回覧。
議論1 史実とフィクション
- 織田勢に等伯がしつこく追われるのに違和感。夕姫の存在にも違和感がある。
- 奥村某という長兄が登場してかなり重要な役割。本当にいたのか?
- →奥村某は周囲にはいたようだが、等伯の兄かどうかは怪しいのでは。
- この長兄が、主家の畠山家に滅私奉公の忠誠、本当だろうか?
- →確かに。「忠君」というモラルは江戸時代ではないか。
- 等伯、久蔵(長男)の同一人説もある。この辺を書き分けるのは大変だったろうね。
- 延暦寺争乱に巻き込まれるところで後半の重要人物の前田玄以、近衛前久を伏線として登場させている。その構想力がいい。
等伯をどういう手順で成り上がらせるか、ずい分考えたことだろう。 - 堺時代に海外交流の匂いをずい分させている。これも小説の景を大きくした。
議論2 狩野派との対決
- 等伯と永徳との絵競べの場面 同票の結果にしたのが面白かった。
- 永徳が悪人に書かれ過ぎている。信長も同じ。この辺り、時代小説臭がある。
- 永徳は有名だが、現在人の目から見て彼の作品、狩野派のその後の作品はどう評価されるのか?
- →永徳、等伯の両方にみられるクローズアップ手法はその後の浮世絵に影響してる。
<室町~明治期の日本画の流れを派別に整理>
- 金箔画は芸術よりも工芸的だね、権力に媚びたりして。
- 後半に登場する「裏狩野」の存在は、フィクションだろうが面白かった。
「裏柳生」を書いた小説もあるし、このあたりは時代小説家のオハコだね。 - 等伯は秀吉に本当に気にいられただろうか? 秀吉の華美好きとはちょっと。
- →茶道の世界もすでにあったことだし、その感受性は戦国武将にもあったのでは。
議論3 全体
- 主人公の反骨性がよく出ている、情熱も。作者はすごい。
- 新聞連載と比べると、前半の畠山関連は加筆されている。自分は必要ないと思った。作者は思いがあったのだろう。
- 静子、清子、夕姫とヒロインが登場するが、誰が一番いいかで華やかな議論。