『白きたおやかな峰』北杜夫
本の紹介
北杜夫の書き下ろし長編山岳小説。1966年刊行。ヒマラヤ山脈中、カラコルムの処女峰ディラン遠征隊に作者はドクターとして参加した。その体験を基に、果敢に山に挑んだ男たちの勇気や情熱、現地の人々との交流、そしてなによりもディランと大自然の荒々しさと神々しさを雄大に描いている。
読後感想・議論
議論1.登攀ルート
- Sさんから、周辺地図と登攀ルート、各キャンプの位置、冬山ディランの写真など、事前に調べた成果の紹介があった。
Sさん曰く、作者は自分自身のことを書きにくかったようだ(遠慮)、ドクターが出てくると空気が緩むと。
逆にホッとするとの作者に好意的な意見も。
議論2.ディラン登攀の難しさ
- 挑んだ男たちが20%近い死亡率。ほとんどが雪崩。
ここは風の通り道、モンスーンを起こす風→猛烈な雪になる。
酸素ボンベ 当時約15kg。大変な登攀だっただろう。
高山病症状 大事なところで忘れ物、落とし物。神経が雑になったいるのがよく分る
その他登頂にまつわる議論が延々と。
議論3.作品について
- これは小説=フィクションで読むべきか、ドキュメンタリーなのかの質問。
その声は前からあった。しかし、各隊員へのインタビューと作者の観察・想像が混ざっていると思う。小説でいい、の声。
各会員の心の中の描写が沢山出てくる、小説らしいとの別の声も。
最後の増田隊員のシーンなどは、これが小説の醍醐味だと思う、の声も。 - 隊長の登攀指示
慎重でむしろコンサバ系の隊長が危険なアタック指令を二度出した。そこが不満。
指揮連絡系統がつぶれてアタック隊の状況を把握できなかった、何とか登頂させてやりたかった、異なる意見が出た。
議論4.文章の美しさ
- 日欠席のOさんより、気に入った箇所を1ページ分頂いた。席上朗読して皆で堪能。
山の白、空の藍、月の神々しさ――純粋な空の藍は黒に近いと写真家のNさん。 - 題名の「白き」について
文法上は「白くたおやかな」「白きたおやかなる」にすべきとの議論あるが、全員一致で、原文タイトルを支持。白きの「き」が効いていると。
議論5.登山用語
- 「キジうち」という言葉が再三出て来る。山での用便のことだとか。 山好きのNさんより、男性は「キジうち」、女性は「お花つみ」という。