『日の名残り』カズオ・イシグロ
本の紹介
ご存じ、日本生まれ英国籍のノーベル賞作家、カズオ・イシグロの代表作。日本人には馴染みのない「執事」職を誇りとし、生涯の仕事にして生きてきたスティーブンス。
時代に翻弄されながら、少しずつ落日を迎える執事職と英国を重ね合わせ、それでも輝きを失わずに生きようとする彼の決心が胸をうつ。
読後感想・議論
構成
老長けた執事、スティーブンスが、以前の女中頭ミス・ケントン(すでに既婚)を訪ねてロンドンからコーンウォール(イングランド西南端)までドライブする。その折々に、昔の出来事―ミス・ケントンへの慕情、温情的な主人と館、館内で展開された外交会談と自分の献身、執事の誇り―を回想する。いわば現在進行中の物語と回顧談の重ね餅。
ドライブルート
Sさんが、ルート地図とフォード車(イメージ)を作成してくれ、これに沿って読み進んだ。彼は欧州駐在中にこのルートを途中までドライブした由。緩やかな丘陵がどこまでも続き、下手をすると迷うと。
回顧談
時代は第一次大戦と第二次大戦の間。大英帝国から滑り落ちつつある英国が舞台。この時代の主な国際政治事件をkさんが纏めてこられた。
議論
●翻訳の巧さ 土屋政雄訳の巧さを全員が感嘆。
- 時代気分の出し方、執事としての言い回し方、日本人への受け入れ易さ。
- Tさん弁 原文と翻訳と両方突き合わせて読み比べ、驚いた。一つの名詞が、状況により異なる訳に。WILLという簡単な言葉も上手な日本語になおしてある。
●執事の一生をどう読むか
- 文中、「品格」「忠誠心」というのが出てきて主人公が大事にしている。
→武士道を見ているようだ。 - 執事のスティーブンスは絶対的な存在として主人を見ている。そんなものなのか?
- 執事の仕事が今一つ分からない。食事回り、雑用回りは描写に出るが、会計回りや、もっというと、会議を取り仕切るような重要な役目の感じがない。
それで「忠誠心」うんぬんというのに違和感。 - マネジャーは別にいそうだね。
●親ドイツの主人と執事
- 執事は最後まで政治的意見は一切いわなかったが、親ドイツは最後まで心にひっかかっていた。
- 執事が旅先で、ダーリントン卿の雇われ人であることを隠した。その思いは?
親ドイツの主人に雇われていたことを隠したかったとする意見と、新しい主人に仕える以上、旧主のことなど言いださないものだ、の意見に分かれた。
●価値観が変わった時代の生き方
- スティーブンスの父親(やはり別の屋敷で立派な執事だった)が登場する訳は?
→ゆるぎない大英帝国の時代のゆるぎない執事としてスティーブンスと対比させる
ためと思う。 - 時代の変わり目 色々な人が色々に対応したことだろう。
- 父母の時代の出来事だ。その世代に私たちは育てられたことを強く感じた。