『歓楽』他2編 永井荷風
本の紹介
荷風は『濹東綺譚』『すみだ川』などの代表作品で知られるが、前回読んだ九鬼周造『いきの構造』との関連で『歓楽』を読むことになった。ついでに上記の、他2編(短編)も読もうとなった。
ちなみに、上記3編を好みで挙手したら、全員が『深川の唄』を推し、意外な結果に。
なお、この3編は、いずれも荷風30歳、帰朝後まもなく書き上げた作品。
読後感想・議論
深川の唄
帰朝後、しばらくぶりの東京をあてもなく、ぶらりと市中電車に乗り、乗客の風俗や会話、車中から見える風景などを描写。最後に深川に降り立ち、往時の面影をしのぶ。
- 何名かの方が、率先、当時の市中電車・界隈の写真、路線地図などを事前調査。それを手元に置いて、作品をたどっていった。
- 観察の鋭さ、描写の巧みさ、構成の巧さなど賛辞が多かった。
- 江戸の化政文化を引き継ぎたい作者の思いが出ている、帰朝直後の青年の気負いが横溢している、乗客が悉くけなされる中で、若妻らしい美人一人だけ褒められる点が荷風らしい、などの意見
- われわれの良く知っているルートを電車が走るので、みんなワイワイと楽しいひと時。
牡丹の客
一時同棲していた芸者とふとしたきっかけで、本所の牡丹を見ることに。
両国橋から舟で二人旅。舟の中から見る下町の景色・人情や元カノから再び言い寄られ、やんわり外す会話などが読みどころ。
- 『深川の唄』の舟旅版。味わいがあるが、淡泊との意見。枯れかかった牡丹に二人の関係が出ているとの指摘も。
歓楽
中年の円熟した作家が青年に、自分の恋愛歴を物語るという構成。10代、20代、30代に分かれている。享楽的な人物が主人公で、作者自身が投影されている。
- 作家論 九鬼よりも荷風が好きだという意見の反面、女性を弄ぶ作者への反感も出て面白かった。
- 別世界の話でピンとこないとする意見、明治人の目で見る必要とする擁護意見など。