『羊と鋼の森』宮下奈都
内藤
本の紹介
- 2016年の本屋大賞受賞作品。
- ピアノの調律師を志した若者が先輩や客先の温かい援護に支えられて自立していく過程を詩情豊かに綴っている。
- 普段は気にしないピアノ内部――音の本質や構造を分かり易く、きれいな文章でまとめている。
- 作者は1967年福井県生まれ。上智大学文学部卒。
読後感想・議論
<この作品が支持されている理由>
- 「音」という目に見えぬものを「文字」にしたところがすごいと思う。
調律のテクニックの凄さも勿論あるが、「音」をどこまでも深く追求する調律師の姿勢が印象的。
- 最後まですらすら読めた。
ピアノの持つ「音」の意味――いいところに目をつけた。
- ほんわかとした小説。ストーリーの曲折はない。音の比喩が沢山出て面白い。
- 双子の妹が突然弾けなくなる(病気)。ここだけがエピソード。
- わが町にも調律師がいて以前直してもらった。やはり人柄が良かった。善人ばかり。
- 形容詞の使い方がうまい。音楽を知らずともできる調律の仕事にびっくり。
- 登場人物は深堀りしていない。中途半端な感――本題ではないのだろう。
<作品の持つ現在性>
- 一歩ずつ、迷いながら、こつこつ――が受けたのかも。
- 若い世代に、がむしゃらさがない、個人の愉しみもひっそりと、と通じる。
- チームワークよりも個人的にこつこつと。
- 目立たなくても地道に生きられればいいやという気持。
- 女性作家と女性読者 現在の典型。男性は推理か時代物に逃げている。
<森が意味するもの>
- なぜ森が出て来るのか、森の匂いまで出て来るのか?
- 森の持つ「深遠さ」、「静謐さ」――都会では決して味わえない奥深さを挿入したのだろう。
- カササギという鳥が出て来る。北海道の舞台に。この鳥は九州と朝鮮半島南部だけ。
違和感があった(本質ではないが)。
<純正率と平均律>
- 音に強いSIさんが詳しく説明してくれた。 音叉を持参、「ラ」の音を聞かせてくれた。