『津軽』太宰治
新田
本の紹介
- 太宰中期の作品。小山書店企画の「新風土記叢書」8編の中の1編として作者に依頼があったもの。1944/11発刊。
- 作者は思想問題、女性問題等が重なり、津軽の実家(富豪)から義絶、帰郷ままならない身だった。この依頼をきっかけに故郷・津軽を一回りし、実家にも立ち寄った。
読後感想・議論
<全体の感想>
- 太宰というと斜陽、心中とか暗い翳がつきまとうが、本質的には明るい人。
この作品も戦争末期の津軽とは思えない明るさ、ユーモアに満ちている。これが作者の本性だろう。(多くの声)
- 食糧欠乏時代とは思えない農村、漁村の豊かさ。運動会までやっている。
- 一方で、隠しきれないコンプレックス(富豪の出身、追われた者の帰郷)も見え隠れ。
- 「死」の言葉が所どころに出るが、「明るさ」の裏に「死」が忍び寄っていたか?
- 紀行文か小説かわからないほど混然一体。
- 特に前半の「外ヶ浜」が面白かった。「日本海側」はネタ不足で作者も困っただろう。
<津軽人の思い>
- ヤマトとは違うんだという気概、独立心を感じた。イヤ、僻陬の地であっても日本の中にいたかった――両意見があった。
<作者と作品>
- 作者の生き方、全作品の一貫性の見地からは高く買えない。イヤ、それは窮屈すぎる、一遍一遍を作品として味わうべきだ――両意見あった。
<その他>
- 序文が長いのとギッシリなのに閉口した。
- 津軽旅行経験者の思い出談にしばし花が咲いた。