『山の音』 川端康成
新田
本の紹介
- 文芸評論家、山本健吉は、本作品を戦後の日本文芸小説の最高峰と激賞した。
- 本作品は、『雪国』と同様、最初から一貫したストーリーで書かれたものではなく、各断章ごとに複数の雑誌に掲載され(昭24~昭29)、それがまとめられたものである。
読後感想・議論
<最初に>
- 川端の出た高校(旧制中学)の後輩にあたるSさんに、作者の生い立ち~少年時代のことなどを話してもらった。
- 若い時に読んだという人も多く、今回読み返しての感想などを披露してもらった。
<内容の議論>
- 主人公信吾夫妻、信吾と息子の嫁菊子、信吾の妻の亡姉、信吾と息子修一、修一夫妻、信吾の長女房子とその娘、房子の夫、大家族制度、戦争の傷跡・犠牲者、信吾の同級生、信吾の夢・・。各断章ごとに登場人物とその背景が多彩で議論のまとまりが大変だった。
- 家族制の中の家族 が一つのテーマに。
登場人物のもたれ合い、自立のなさと大家族制との関係で議論が盛り上がった。
絹子の独立と出産の決心、菊子が自分の判断で堕胎、終盤では強く生きようとするあたりに戦後世代の「個の意識」が出て良かったと多くの意見。
- 主人公信吾と嫁菊子の微妙な接近感が小説全体の底流
信吾への評価が厳しかった。長男の嫁菊子の立場を巡って種々の意見。
- 昭和25年頃の風俗
優生保護法と堕胎、帰還兵とヒロポン中毒など負の影も覗かせている。
一方、生活感の乏しい小説だとの批評も。
- 登場人物について
信吾夫妻が、出戻りの自分の娘とその娘(孫)に向ける辛辣な眼差しに違和感との意見。信吾の妻は嫁の菊子にジェラシーがないのか?との意見など。
- 結局この小説では何を訴えたいのか
・女性の生き方 ・生と死 ・老境の哀しさ 等々出たが、それらすべてを包摂して、「かなしく、美しい日本」を表現したかったのだろう、との意見があった。