『名もなき道を』高橋治
本の紹介
- 主人公は、なんと司法試験20回不合格の「奇人」。
モデルとされた男性の妹夫婦が「プライバシーを侵害された」として作者と出版社を提訴し、長い年月争ったことでも知られる。 - 昭和59年~60年、地方各紙に連載、昭和63年単行本化
- 地方の有名医家の長男に生まれ、両親の過大な期待に苛まされ、奇行を繰り返した挙句、不幸な死を遂げた男の物語。
読後感想・議論
<最初に作品推薦のSさんより>
- 20回も試験に落ちた男を叩きつけることは易しいが、何故20回も挑んだのかについて、この男の胸中・精神面など議論していきたい。
<議論、感想>
- 小説のスタイル、仕立てかた
- 序章で死にかけた恩師が最終章で死ぬが、そこまで来て初めて物語が完結するのはユニーク、反面分かりづらかった。
- 推理小説仕立ての面白さ。 主人公は早々と死に、彼の恩師が回りの人の話を聞いて情況を積み上げていき、主人公の内面に迫るという手法が良かった。
- 恩師が聞き取る関係者は旧制中学、旧制高校、旧制大学の関係者
- 主人公に対する眼差しが一様に冷たい、とする意見とその反対意見=旧制高校らしい情が感じられるとの意見に分かれた。
- 親の見方、親の声がほとんど出ない
こうなるまで親は何をしていたのか、ちゃんと向き合っていたのか、親の悩みは?
などが出ていないという声。多数。
- 毎年受験する心境
わざと落ちるのかと思ったほど。受験自体が自己目的化している。きちんと勉強していない、惰性で受験。など色々の声。 - 後半 ヒロイン苑子の登場
ここから展開が変わる。登場人物が増える。時代が進む。
男女関係が最後までなかったというのが不思議な印象
主人公を追いかけるように仙台の大学まで進学する苑子への接し方が乏しい。
無関心なのかと思っていると、影では苑子の得意な謡=能の練習をしっかりやっていた、と少しちぐはぐ。 - 結局この主人公は?
相手の気持を読めない人。攻めは強いが受けに弱い。防御局面ではエクセントリック。
最近の80歳―50歳問題を思わせる、など多くの意見。 - 結局、作者は主人公の一生をどう捉えたか
肯定的に認めている意見が多かった。反対意見も。
最後の落としどころを「色即是空 空即是色」で2ページにまとめたのが良かったか、悪かったか。