『天平の甍』井上靖
本の紹介
- 戦後を代表する大作家なのに、「読もう会」では不思議にも取り上げられなかった。
若い時に誰でも数冊は手に取ったであろう作家の懐かしい1編。 - 昭和32年、作者50歳の作品。
読後感想・議論
<最初に作品推薦のSさんより>
- 聖武天皇の奈良時代。日本に戒律を施して貰う名僧を求めて入唐した留学僧と鑑真の心の交流、苦難の渡航の物語だ。鑑真よりも留学僧たちが物語の主人公。
- スランス勤務時代、当地の留学生から、この作品の留学僧たちが自分たち(留学生)の気持を代弁していると聞いたことを思い出した。
<苦難の渡航の地図、物語の進展のレジュメ、当時の日本仏教界の状況をそれぞれ、事前にまとめてくれたメンバーに感謝。それを眺めながらの議論となった。>
<議論、感想>
- (東アジアの上記地図を見ながら)
ある研究では、遣唐使船で無事帰国できたのは、約65%との紹介。
文中、ペルシャ等の船がぎっしりというくだり(広州)があるが、西方の方が航海術や船が進んでいた?
東シナ海の荒さ、伝う島がない地理条件、船の構造などそれぞれに意見あり。 - これほど危険を冒して渡唐する意味?
日本で税逃れ目的の俄か僧の大量発生が社会問題―戒律を整えて仏教の秩序確立が大きな命題だった。
仏教マターだけではない、先進国に朝貢する意味は多岐―中国の脅威回避、先進の文化、技術、人材の招聘 - 鑑真の決意
慧思という偉い僧が「東方に生まれ変わる」という伝説が根底にあったのでは
これ以上唐にいても天井感、という冷めた意見。いや、純粋な動機と思いたいとの意見など。 - 人物評
業行が面白い―(これは作り上げられた人物像とのこと)
戒融の個性が面白い など
(優等生、普照を推す声はなし)
学生時代の友人たちの姿と二重写しになった
玄昉、吉備真備、阿倍仲麻呂などが冷たく描かれているのも面白い など - 作品全体
史実とフィクションの間の余韻が面白い
司馬遼太郎が書いたらどうなったか
井上の木強・簡潔さの方が好き、文章に詩を感じるなどの声
感動したところ
帰りの船で業行が大事な経典と一緒に海に飲み込まれた(であろう)シーン、
玄朗が現地での妻子を連れて帰国したいのに、結局最後は現れなかった、
唐招提寺の鴟尾のエピソード
(鴟尾を日本に送ったのは戒融か玄朗かで議論に)
最後に
二人のメンバーより、同じ作家の作品で、
『ある偽作家の生涯』、『風濤』の紹介がありました。