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サロン21

「人口」を考える視点(サロン21 2013年9月17日) ―まとめ―

担当 野瀬 隆平

あえてテーマを「人口問題」としなかったのは…。
問題と言うと、problem、(本来あってはならない、そこから脱却すべく解決しなければならない「問題」と捉えられる恐れがある。英語でいうissue,あるいはthemeであると理解すべき。先入観を排除して、客観的に「人口」について考えたいからである。

1.日本の人口が歴史的に見て、どのように推移して来たのか。

 あまり当たらない将来予測の中で、唯一、人口予測だけは、当たる確率が高い。(ほぼ、そうなる。)現在は、急激な増加期から急激な減少期に移行するという特異な時期にある。その人口を賄うだけの食料の量が、最大値を規定するのは動物学的にみて間違いない。しかし、食料の量に人口数が比例しているとは限らない。むしろ逆相関関係にあると言ってよい。(アフリカ諸国)
 江戸時代の人口が3,100万人と一定で、増加しなかったのは、食料生産量が頭打ちになったことが主因。間引きなどが行われた。鎖国の影響もあったかもしれない。ちなみに、16世紀のイングランドの人口は100万人。そのころ日本の人口はその10倍の1000万人。

2.人口変動の要因、社会の発展過程との関係。

少子化が進んでいる理由は、「子育てに対する不安」や「将来の生活に対する不安」といったものではない。戦争中や戦後のベビーブームのときの日本や、アフリカの人口爆発をみれば明らか。真の理由は、「民主化の進展による女性の地位の向上→家族形態の変化、個人中心でも生きることが出来るところまで文明が進んだ」ことによる複合的な結果である。
エマニュエル・トッドの仮説
1951年生まれフランスの人口学者・人類学者。『帝国以降』の中で、人口動態から見える世界文明の変化の過程を述べている。
大衆の識字率の向上→物質的環境の統制→経済的テイクオフ→人口革命
(女性が読み書きをできるようになり、受胎調整が始まる)

3.世界の最先端を行く日本の人口動態変化。
日本は世界に冠たる長寿国。平成24年の平均寿命:女性86.41歳で世界一、男性79.94歳で5位。1位はアイスランドの80.8歳)
4.世界の主要国と比較してみる。

国連の推計による人口増減率ランキング
(2010年から2100年までの間に、何%人口が増加するか)

1.タンザニア
605.5
2.ウガンダ
412.2
3.ナイジェリア
360.7
4.コンゴ
221.5
5.フィリピン
90.7
6.エチオピア
81.0
7.アメリカ
54.0

下から

6.ロシア
-22.3
5.韓国
-22.8
4.ポーランド
-23.1
3.日本
-27.8
2.中国
-29.8
1.ウクライナ
-33.4
5.人口、少子化と高齢化の定義
高齢化社会、高齢社会

高齢とは65歳以上のことを言う。この人口が、老齢人口。
高齢化社会は、高齢率が7%以上の社会。日本は1970年になった。
率が14%以上となると、「高齢社会」と呼ぶ。日本は1995年になった。

1.日本
23.39
2.ドイツ
20.59
3.イタリー
20.58
4.ギリシャ
18.68
5.スエーデン
18.57

以下 注目する国

フランス
16.8
イギリス
16.6
アメリカ
13.1

最も低いのはケニアの2.7%

合計特殊出生率

女性の年齢別の出生率を合計したもの。一人の女性が、生涯に産む子供数の平均を示すものとなる。(戦前は4~5人だった。)
f(x) : 年齢xの女性が一年間に産んだ子供の数
g (x) : 年齢xの女性の数
Σ f(x)/g(x) x=15から49
15歳から49歳までの女性が、子どもを産めるという前提。
近代化が進み、前近代的なものからの決別して、王制を倒した市民革命の結果、低下すると考えられる。(今や、イスラム・アラブ圏の諸国がこの段階に達しつつあるとの考えも。)

合計特殊出生率の国別順位(2010年)

1.ニジェール
7.1
2.アフガニスタン
6.3
3.マリ
6.3
113.アメリカ
2.1
122.フランス
2.0
152.中国
1.6
175.日本
1.4
186.ポルトガル
1.3
186.韓国
1.3
186.シンガポール
1.3
186.スロバキア
1.3
生産年齢人口

15歳から64歳までの、一般的に生産に従事すると考えられる人口。

従属人口数(従属人口指数)

0歳から14歳までの年少人口と、65歳以上の老齢人口の和。
経済的な視点からは、生産年齢人口に対して、どのくらいの割合かを見る。
現在、47%。2022年には、67%に。老齢人口だけの割合は、26である。
ちなみに、大正9年(1920年)は、71.6%。寿命が短く、多くの子供たちを、比較的少ない働き手が支えていたことが分かる。
日本では、この割合が終戦後1970年ころまで下がり続け、その後1990年までほぼ変わらず、この間に急速な経済成長を遂げた。1990年以降はずっと従属人口指数は上昇しつつある。
(この定義に用いられている年齢は、実情に合っていないので、変える必要があろう。)

6.少子高齢社会のプラス面とマイナス面(国民経済の観点より)
考えられるマイナス面
  • 年金・医療保険制度の崩壊
  • GDP(国力)の衰退
  • 労働力・人的資源の減少
考えられるプラス面
  • 一人あたりの資産の増加
  • 子供の教育に要する費用の負担減と、教育の質の向上
  • 住宅問題の解消(親の家を相続、高額ローンからの解放)
  • 人口密度の低下、ゆとりある生活、通勤地獄の解消
  • 就職難の解消
  • 高齢者の就労機会の増加(生きがい、社会に貢献)
  • 文化・芸術の発展と継承
    (江戸時代、更にはイタリアのルネッサンス時代も、少子高齢化により文化が発展したと言われている。)
7.人口構成に合った制度設計

人口減少社会の到来が避けられない事実であるのなら、マイナス面を最小限に抑える方策を考え、それにあった社会の制度設計をすることこそが重要である。例えば、今の年金制度が世代間の不公平感をもたらしているのならば、シンガポールCPF制度のように、個人名義での完全なる積立方式にするのも一つの方法。

8.長寿社会で考えること‐追加項目

以上、主に経済的な観点から見てきたが、個人、あるいは社会学的な視点からの考察も必要。日本は、長寿先進国と言われているが、老人の一人暮らし、独居率は他の先進国に比べて意外と低い。
60歳以上の老齢者が一人で暮らしている割合:日本24%、アメリカ50%
65歳以上の老齢者が一人で暮らしている割合: 日本30%、スエーデン40%
・付き合いの少ない日本の老齢者
OECDによる国際比較(他人とめったに付き合わない割合)
日本は最高の、16%。欧米諸国は5%以下が多いのと対照的。
オランダはわずか2%。それだけ夫婦の相互依存度が高いのか。
意識、ライフスタイル面での遅れ。現状の解釈に、二つの見方がある。

  • ①伝統的な社会の絆が戦後の経済発展の中で失われたが、まだ新時代に順応したコミュニティが出来ていない。
  • ②社交が無くても生活に支障をいたさない経済・社会が成立している。

参考文献
『移行期の混乱』 平川克美
『経済成長という病』 平川克美
『人口減少社会の設計』 松谷明彦、藤正 巌
『高齢化社会は本当に危機か』 川口 弘、川上則道
『高齢化社会の基礎知識』 エイジング総合研究センター編
『人口減少時代の日本社会』 阿藤、津谷
『帝国以降』 エマニュエル・トッド
『文明の接近‐イスラームvs.西洋の虚構‐』 トッド、ユセフ・クルパジュ

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