作品の閲覧

サロン21

サロン21 討論メモ 「国際金融の現場に立って」

平成27年1月20日

 1. ゲストとして特別にご参加いただいた大島陽一さんに、下記のレジメに沿って、中央銀行、民間銀行時代の豊富なご経験、並びにリサーチセンターのトップとして、また、大学教授としての長年の御研究の成果を基に標題に関する御講演を頂いた。

「銀行員等朝より蛍光す烏賊のごとく」という金子兜太さん(元日銀勤務の俳人)の句を紹介されながら、金融の世界とは冷たく無機質なものという一般の抱くイメージに対して、実際には人間臭いドラマが多く、義理人情の世界であるということを、御自身の国際的な数々のご交友、また、イラン・イラクの若きエリートたちとの真摯な付き合いが後に思わぬ形で報われた御経験などを交えてご説明いただいた。
 さらに、紛争の火薬庫たる中東には地域に密着してみなければわからない複雑な実情、固有の文化や習慣がある事、またそんな地域での金融の実態についてもご説明があった。
 また、中央銀行の役割は通貨価値の安定こそが大目的であり、近年議論される雇用の確保や成長にどこまでかかわるべきなのか、現行の異次元緩和の得失、国債累増などについては慎重に注視して行く必要があることをご説明いただいた。

 大島陽一さん作成のレジメ

【国際金融の現場に立って】

1.金融にはドラマがある
 ・銀行家の地位変遷(金融機能の変化が背景)
 ・国際金融にもある「義理人情」
 ・体制変革とのスリリングな遭遇
  スミソニアン体制の崩壊
  冷戦構造の瓦解

2.国際紛争の火薬庫、中東地域と国際金融
 ・民族、部族、宗教の織りなす混沌
 ・植民地政策による人為的国境設定の弊害
 ・地元との密着、肌で感じる各地の実情
 ・湾岸戦争の実態とその軍事史的意義

3.我が国金融政策の現状と金融理論
 ・中央銀行の政策目的、「通貨価値の安定」は万古不易
 ・マネタリズムの浸透、物価は「貨幣的現象」か
 ・インフレターゲット、成長目標と中央銀行
 ・国債累増と超金融緩和からの「出口」

 2.続いて出席者15名による自由な討論に入り、下記のような意見が出された。

 ユーロは崩壊させてはならないが、難しい局面を迎えている。→ギリシャをどこまで救えば良いのか、ラテン諸国はどこまで規律に耐えられるか。
 ユーロは金融の統一に留まっており、財政は不統一。→構造的な問題を抱えている。

 異次元緩和、国債累増を放置しておくとあっという間にハイパーインフレが起こる可能性はある。
 ハイパーインフレは貨幣でなく、モノの供給不足から起こるので、現状では過度の心配は不要ではないか。

 異次元緩和により、円安や株高の一定の効果は出たが、金融機関の日銀への預金が増加しているだけで、貸し出し増にはつながっていない。
 現状はケインズの言う「流動性の罠」の状態で金融緩和では成長は促せない。金融とは馬の手綱のようなもので、引き締めには効果があるが、緩めても手綱がたるむだけで効果はない。→成長には、政府による規制緩和などの第三の矢が必須である。
 しかし、企業は笛吹けど踊らず、消費者は必要なものがなくなってしまっている。
(経済成長の計算基礎になっているGDPの構成要素である企業の設備投資は、ビジネスチャンスが無ければ増えない。またGDPの最大項目である「消費」は、所得増が見込めなければ増えないし、また人口減では、総額が増えないのは当たり前。)

 経済成長を追うばかりでなく、豊かな社会とは何かを再考すべき時だ。

 最近訪れたフランス社会は明るい。人口が増え(移民や婚外子の是非は別として)、食料の自給率が100%を超えているのが、その要因であろう。

以上

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧