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サロン21

「イスラム国について」

2015年3月17日 横内則之

 シリアで、日本人2人の人質事件が起こり、日本も、国際テロに巻き込まれる事態となりました。これからは、日本でも、自爆テロが起こらないとも限りません。これを機会に、イスラム国について意見交換できれば幸いです。

  1. 安倍総理の中東発言
    『イスラム国がもたらす脅威を食い止める為』と言ったのが、敵対行為とみ なされる勇み足となった。
    1. ①中近東の平和と安全の為に全力を尽くす。
    2. ②難民に対し、人道的な立場から、食料、医療等の支援を行う。
      というレベルに押さえ、赤十字のように、敵も味方も困っている人を助けるとしておくべきだったのではなかろうか。
      但し、昨年の9月の時点で、既に日本は、有志連合国に参加しており、今回の発言は、単なるきっかけに使われただけで、本質的には無関係という見方もある。
  2. テロとは何か
    1. ①思想、信条をベースにしていること(単なる私利私欲のためなら、単なる犯罪に過ぎない)
    2. ②非合法的な行動であること
    3. ③その行為が、相手(人に限らず設備、システムを含む)に、致命的なダメージを与えること。

     の3条件を満たすものではなかろうか。
    法治による処刑や、国同士の戦争による殺人は、合法でありテロとはならない。

  3. 国と認められるためには
    1. ①有る地盤を持っていること(地域、州、国等)
    2. ②統治機構があり、指揮命令系統が明確であること
    3. ③そこに所属していることが、外から分かる事(旗や制服等)
      制服を着た投降兵は、捕虜として扱われるが、私服のものはゲリラとみなされ保護されない。

     これらが満たされた組織は、国(あるいはそれに準じた組織)とみなされ、それが行う対外戦闘行為は戦争とみなされ、国際法上も認められている。

  4. イスラム国とは
    1. ①アルカイダは、イスラム原理主義と西欧との宗教的な軋轢から発生した組織であるが、タリバンやイスラム国は、それ以上に、政治的な思惑(建国)が絡んでいるように見える。世界の多くの若者が集まるのは、建国のロマンにひかれてのことだろう。
    2. ②不十分ながらも、シリア、イラクの北部地域を根城にしている。
    3. ③カリフ(最高統治者)を設け、国家と宣言している(省庁があり、税金を徴収し、年次報告書まである)。
    4. ④黒い旗と、黒い戦闘服を着用。
    5. ⑤ただ、そのやり方には異論があるが、イスラム法、ハディース(預言者の言行録=行動規範)によれば、敵の捕虜は、
      ・殺害
      ・奴隷化
      ・捕虜か身代金と交換
      ・釈放
      となっており、彼らの論理には合致しているのかもしれない。

     イスラエルのシオニストも、中国共産党も、イランの革命政権も、その初期段階ではテロ行為を行っていた。薩摩でさえ、火付け押しこみで幕府を挑発した。
     イスラム国も、サラセン帝国やオスマン帝国に倣って、『大イスラム国』を建設するかもしれない。
     そのような見方をすると、イスラム国は、アルカイダやボコ・ハラムとは異質と見なければならない。

  5. 人質への対処
    1. ①湯川さんは、私利私欲(私設軍事会社の経営者)で、自由シリア軍に体験入隊し、戦闘行為中に捕虜になったものであり、敵の捕虜とみなされても仕方がない。
      後藤さんは、湯川さんを救出する為に、危険を承知で、イスラム国勢力圏 に潜入し、情報活動をしていたとしたならば、スパイとみなされても仕方がない。
      この二人は、戦場に行き、戦闘員あいはスパイとして捕まった者で、単なる旅行者や企業の派遣社員、ボランテイア要員等とは明確に異なる。
    2. ②政府の制止を振り切って、リスク覚悟で行った今回の事件は、自己責任を問われても仕方がない。動機はどうであれ、日本国民が危難を受けている時、これを救助するのは国家の責務であるが、かかった費用は、本人(家族)に請求して然るべきである(冬山の遭難と同じ)。
      後藤さんは、覚悟の程を吐露し、テロ保険まで掛けていた所をみると、そのことを良く理解していたのだろう。その面では、終始一貫しており、覚悟の表情といい、サムライとも言える。
    3. ③問題は、首を切ったり、法外な身代金要求は、国際的常識とはかけ離れているが、それが、法治(この場合はイスラム陸軍刑法)の下でなされるのならば(湯川さんは、裁判にかけようとした形跡がある)、外部の者は、どうすることもできないだろう(麻薬を運んだ日本人を処刑する中国や、死刑廃止国が、死刑実施国を非難しても始まらないのと同じ)。
  6. 中東紛争の背景
    1. ①そもそも中東紛争のもとは、西欧諸国が、植民地政策により、人為的に国境を引いたこと(サイクス・ピコ協定)、イスラエル建国をめぐり、二枚舌外交をしたこと、石油利権と勢力圏拡大の為に中東に介入したこと、不適切かつ中途半端な介入をして混乱を助長した事(軍需産業の思惑もある)等の結果である。
      イラクの現状を見ると、こんなことなら、フセインの独裁時代の方がましだったと思う人は多いのではなかろうか。
      石油は、正にアラーの神様の贈り物なので、イスラム世界で等しく共有すべきであるにもかかわらず、メジャーがそれを牛耳り、それと結託する王族国家が富を独占するのを許せなく思う気持ちは理解できる。
    2. ②イスラム国の動きは、西欧から傷められ、辱められたイスラムの人々の自主独立運動(イスラム世界の再構築)の様にも思える。『イスラムの、イスラムによる、イスラムの為の国』を目指しているのであれば、これは、民族自決の問題であり、イスラム世界内部で解決してもらうべきものであろう。
      外国による中途半端な介入は、紛争を長引かせ、返ってその国民をより不幸にする(戊辰戦争で、英仏の介入を防いだことは、幕府にとっても、薩長にとっても賢明であった)。
  7. 日本の取るべき立場
    1. ①日本が、国連の重要な一員として、世界の平和と安定に寄与すべきは当然であり、その事は中東においても同じで、人道支援はやらなければならない。但し、それは、集団的安全保障(PKO=平和維持活動)の問題であり、集団的自衛権とは、区別しておかなければならない。
    2. ②日本の安全が脅かされている訳ではない現状で、米国に肩入れし過ぎたり、義侠心を振りかざして、深入りすることは、得策ではない。
      後方支援は、戦闘行為(PKF=平和維持軍)の一部なので、国際紛争を解決する手段として武力の行使を放棄している以上、これをやるには、憲法改正が必要だろう。
    3. ③従って、日本は、敵味方の区別なく、赤十字を使って、困っている人を人道支援するにとどめるべきでなかろうか。
    4. ④但し、石油の安定供給に支障が出るような事態が発生すれば、日本の安全が脅かされることになるので、集団的自衛権の問題に発展する。
      また、無辜の日本人や、本土が攻撃されるようになれば、個別的自衛権を発揮する必要がある。その覚悟と備えは、今からしておく必要がある。

 以上、イスラム国は、単なるテロ集団ではないとの考え方に立って、今後の対応をしないと、日本は国策を間違えるような気がする。

イスラム国人質事件の経過(ご参考)

1. 2001.9.11
9.11事件
2. 2001.10.7
アフガン戦争開始
3. 2003.3.20
イラク戦争開始
4. 2004.10.27
イラクで香田事件
アルカイダーによる、自衛隊の撤退要求を拒否
5. 2014.6.29
イスラム国建国宣言
6. 2014.8
湯川さんイスラム国に拘束
7. 2014.9.19
米国防総省による有志連合国(57カ国)の公開、
〈以下主要国〉
  1. ①軍事支援と人道支援(17カ国)
    米、英、豪、加、仏、蘭、伯、独、伊、デンマーク、カタール、UAE、サウジ、エストニア、ハンガリー、チェコ、ブルガリア
  2. ②軍事支援のみ(4カ国)
    ヨルダン、バーレーン、アルバニア、クロアチア
  3. ③人道支援のみ(14カ国)
    日、韓、クエート、トルコ、ニュージランド、ノルウエー、スエーデン、西、アイルランド、スイス、オーストリア、ルクセンブルグ、スロバキア、グルジア
8. 2014.9.23
イスラム国への空爆開始
9. 2014.9.24
国連安保理決議178号(イスラム過激派等に加わる外国人戦闘員への対策強化)。露、中を含め全会一致
10. 2014.11.3
12月
後藤さんの拘束確認
妻に身代金要求(20億円)
11. 2015.1.7
フランスでシャルリ襲撃事件
12. 2015.1.16
1.18
安倍首相中東訪問
エジプトで『対イスラム国に2億ドルの支援発表』
13. 2015.1.20
後藤さんの映像で2億ドルの身代金要求
14. 2015.1.25
湯川さん殺害、後藤さんの代わりにリシャウイ釈放要求
15. 2015.2.4
後藤さん殺害映像

PKO(PeaceKeeping Operation)
 ①停戦監視、②平和構築活動、③人道支援、④文民保護
PKF(PeaceKeeping Force)
 ①監視、②分離活動、③異動統制、④不測事態対処
 ⑤武力行使、⑥後方支援(兵站、通信、公法)

以上

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