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サロン21

サロン21 討論メモ 「ピケティーを読む」

平成27年4月21日

〔1〕.当月は、「ピケティーを読む」と題して野瀬隆平さんに昨今話題のトマ・ピケティー氏の「21世紀の資本」について下記のレジメに沿ってその内容を詳しくご説明いただきました。また、ピケティー氏は、過去200年のデータを解析して格差は広がっていると指摘し、その解消策を提案していることなどを説明いただきました。

トマ・ピケティの『21世紀の資本』を読む(レジュメ)
  1. アプローチ方法の特徴
    経済の動きを、現実に即してかつマクロに捉えるには、どうすれば良いか。
  2. 基礎概念の定義
    「資本」や「所得」などの基本的な概念をどう認識するか。
  3. 経済を動かす三つの重要なファクター
    資本収益率、資本分配率(資本所得÷国民所得)及び資本(ストック)÷年間の所得。 それぞれ、どんな意味を持つのか。
  4. 資本主義の基本法則
    それぞれのファクターの間にどのような関係があるのか。
  5. 資産(資本)の形成
    相続と貯蓄は、どのようになされるのか。
  6. 格差発生の要因と実態
    格差は何故起こるのか。これまで、どのように推移して来たか。現状は。
  7. 格差を解消する方策
    格差を解消する(小さくする)最も公平で効率的な方策は何か。
    課税によるとすれば、どのような税金が良いと考えるのか。
  8. 公的債務についての考察
    政府の債務をどう認識するのか。削減するためには、どのような方策が好ましいと考えるのか。
    トマ・ピケティが提案する方策は何か。

〔2〕.続いて出席者20名による自由な討論に入り、下記のような意見が出された。

観念論ではなく、過去200年のデータを分析していることに特徴がある。
しかし、主として税務データに依拠しているが、社会情勢により税率の変動は激しく、比較の妥当性には疑問が残る。

過去のデータの活用はいいが、どのように解析し、どう加工して結論を導き出したのか、プロセスが不明。したがってピケティーの提案の是非を判断できない。
過去のデータに拘るのはいかがか。社会体制の違うものを比較しても意味がないのではないか。
相続税率も社会変動により、0%→90%→40%などと大きく変動している。

格差の拡大は国際的な問題になっている。
日本もジニ係数が高くなってきている。
日本の格差は国際的には小さい方だが、広がっている。
日本に本当に貧困があるのか。働かないものが、金持ちを妬んでいるのではないか。
働く努力と受け取る賃金との間にギャップがあるのではないか。
一方では、投機などにより巨額の浮利を得る人がいる。
格差はいつもある。格差の英語はINEQAULITYで不平等論である。格差の絶滅は非現実的。
格差があるのはしょうがないし、認めるべき。ただし、貧困者はなくすべきだ。
格差よりも貧困が問題。貧困が世界を不安定にする。
恵まれない人々をいかに救うか、皆で考えるべき。
階層の分類を上位1%、下位50%など数字で表しているところが斬新である格差は経済学だけでなく、社会科学を総動員して考えるべき。
中国に相続税がなく、格差が拡大するのは当然である。
平和が続けば格差が広がり、戦乱時には一時的に格差は小さくなる。
格差をなくそうとすると、その政策への対抗策が出てくる。
「世界で一番貧しい大統領」のスピーチによれば、貧乏とは満足しない人である。
世の中の価値を全て金で測っている。金で測れぬ価値の重さを見直すべきだ。

消費税は大いに取るべき。30%ぐらいは取るべき。
消費税には逆進性があり、弱者の負担が大きい→いや、最も捕捉しやすい公平な税制である。
フローに対する累進課税は定着したので、資産課税にも累進性を取り入れるべき。物品税を復活させてはどうか。
ローマの貴族は、納税義務は負っていなかったが、戦争などの非常時には先頭に立つ義務を負っていた。

ピケティーは資本主義を否定しているわけではなく、資本主義を救う提案をしている。
金利0は資本主義の終焉を告げている。
しかし、資本主義は最も効率の良いシステム。これを継続させるためには格差の是正が必要。
ピケティーは中国には欧州資産を買うほどの力はないとみている。

公的債務の返済方法には下記の三つある。
緊縮財政:景気落ち込みの怖れ
インフレ:ハイパーインフレの恐れ
資本税の導入:ベストの方法。

国家運営の資金源は、下記の二つある。
税金の徴収:富裕層からとりたてる。
国債発行:富裕層に金利を払い、富裕層を一層富ませる。

ピケティーの政策は現実の政策になりうるか。
資産税は現実に機能させるには、いかほどにすべきか。
格差を解消するための資産課税とはどう実行するのか。税金逃れの知恵は発達し、国際社会は複雑だ。言うは易く行うは難しいのではないか。
TAX HEAVEN をなくす必要があるが、世界のGDPの8%相当分が行方不明になっているのが現状で、資産・資金の流れの把握は難しい。
各国での状況の違いをどのように調整できるか。
固定資産税があるのに、なぜ流動資産税がないのか。
マイナンバー制の導入と紙幣の交換で、かなりの程度まで捕捉可能。
もっと具体的な提案が欲しい。ピケティー説は一般論、観念論に留まっている。

ピケティーの本は、当初は地元のフランスで売れなかったが、英訳され米国で人気になった。
米国の反格差運動と波長が合い、注目された。
日本語版は英訳の和訳である。仏語の源書を読んでみたい。
経済学というよりも自然科学に近い。多くの学者が引用する書になるのではないか。

3.ピケティーのデータを基礎とする手法、また、格差を是正するために資本税を巧みに導入しようという方向性については賛同の意見が多かった。しかし、社会体制の相違するところでのデータ比較の意義、提案の具体的な実効性に関しては疑問視する意見も多かった。
格差の是正も含めて、よりよき資本主義への道については、ピケティーも提唱している通り、社会科学全般の角度からさらなる研究が必須と思われる。

以上

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