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サロン21

21世紀 日本の而立へ向けて

平成28年7月19日 森田晃司

1.第二次大戦後の世界秩序

 第二次世界大戦以後、世界大戦は起こっていない。したがって、正義の味方の連合国(United Nations)に対する独裁軍事国家の枢軸国という構図は残されたままである。現に国連(the United Nations)は, 連合国の中心メンバーだった米、英、仏、ソ連、支那がそのまま常任理事国となった組織で、今も日独は敵性国家のまま止め置かれていて、70年を経ても戦後秩序は不変である。
 なお、(the United Nations) を国際連合と邦訳したのは、外務省の意図的な誤訳である。

 日本においては、連合国が一方的に日本を断罪した東京裁判史観が定着し、これに異議を唱えれば、直ちに歴史修正主義との烙印を押されて、国内外からの批判を浴びるパターンが今も続いている。連合国の占領政策であった言論統制が今日なお厳存していると言われる由縁である。
 日本は表面的には1952年4月28日発効のサンフランシスコ条約によって独立を回復したが、その裏で真の独立に関しては手枷、足枷をはめられ続けてきた。軍備、航空機、宇宙開発、情報機関、発信機関などにおいては、連合国、とりわけ米国に敵対する能力を保持できぬように制限が加え続けられてきた。
 戦争放棄という世界に類例を見ない自虐的憲法も押し付けられ、その結果、自国の防衛すら他国にその運命を委ねるという信じ難いまでにゆがんだ精神構造が出来上がっている。

 しかし、その連合国の制定した構図が揺らぎ始めている。戦後秩序への疑義が強く出始めている。連合国主導の世界、とりわけ米国主導の価値観、なかんずくウォール街を中心とする金融支配、グローバリズムに対する疑念が世界に広がってきている。

2.戦後秩序に変化の兆し
  1. ①.オバマ大統領の広島訪問:
     1945年8月6日から70年の時を経て、原爆を投下した国の現職大統領が原爆被害者の慰霊をするという歴史的な瞬間が訪れた。
     第二次世界大戦中のドイツでの開発・研究に対抗するためという大義名分の下に、原爆はユダヤ人を始めとする世界の科学者を米国のロス・アラモスに集めて組織的に研究、開発され、1945年の7月16日には初めての原爆実験が実施された。
     ドイツも降伏し、もはや第二次大戦の終結を予測できる段階に来ていたこと、
     日本は戦闘能力を喪失し、ポツダム宣言の受諾に動いていたこと、
    などから原爆の投下には賛否両論があった。
     開発に携わった多くの科学者の間にも、原爆のおぞましいまでの効果を実験などで確認して、原爆投下の中止を求める嘆願書への署名が広がったほどだった。しかし、トルーマン大統領はウラン型、プルトニウム型の二つの異なるタイプの原爆の投下を指示した。
     原爆の効果の実験だった、
     戦後の国際社会への政治的効果を狙った、
     人種差別が背景にあった、
     などの指摘がなされているが、米国は、現在も、原爆投下は戦争を早期に終結させるために必要だったとの立場を崩していない。
     日本は誰をも恨まず、ひたすらに平和を希求してきた。原爆投下も、10万人の犠牲者を出した東京大空襲を始めとする無差別殺戮にも、悪かったのは戦争であり、相手国ではないという立場を貫いてきた。
     今回の熊本大地震に際しても、人々は自然を恨まず、やむをえぬこととして対処しようとしているかのようだ。個人の力の及ばぬことに対しては、これを受け入れ、地道に改善に向けて努力するのが日本人の生きざまのようだ。そんな生きざまが70年を経て欧米首脳の心に訴えているのであろうか。

     今回の広島訪問では原爆投下についての謝罪はなかったが、現職大統領が、原爆が投下された地を訪問したという事実だけで充分である。第二次大戦の原因・結果について連合国が枢軸国を一方的に弾劾するという歴史観が見直される大きな一歩となった。
  2. ②.米国の大統領選:
     トランプ氏が共和党の予備選に勝利し、また、民主党でもサンダース上院議員が善戦した。両候補ともウォール街からの金銭支援は受けないこと、また、世界の警察官であるよりも、米国の国益あるいは米国民の利益を最優先することを標榜して選挙戦に臨んだ。戦後、一貫してウォール街の金融資本が支配してきた米国大統領選に新風が吹き始めている。
     金融資本が支配するマスコミの激しいネガティブキャンペーンにもかかわらず、両氏に対し強い支持が集まったのは、ウォール街の金融支配からの脱却を願い、古き良きアメリカへの回帰を願う米国一般市民の願望の表れと言えそうだ。
     仮に、トランプ氏が大統領に当選すれば、グローバリズム一辺倒の米国外交方針は見直されることになり、日米両国民にとってプラスになることが期待できる。また、一方ではトランプ氏は指名獲得が確実になった5月初旬の段階でイスラエル協会たるAIPACやウォール街の重鎮であるスティーブン・ムニューチン氏を陣営に引き入れるなど、金融資本との妥協に動き始めており、諸課題に対しても柔軟に対応する可能性がある。
  3. ③.米国内における第二次大戦の再評価の兆し:
     従来、米国内ではアンタッチャブルだったFDR(フランクリン・デラノ・ルーズベルト)の業績を客観的に評価しようとする動きが出始めているとの指摘がなされている。真珠湾攻撃はFDRの仕掛けた罠であり、米国民の厭戦を押し切って、米国を第二次戦争に引きずり込むための口実作りだったとの指摘が下記の例の他にも多数明るみに出てきている。戦後秩序も見直されることになる。

    チャールズ・A.ビアード「ルーズベルトの責任」1948出版
    ヘンリー・スティムソン陸軍長官の日記:大統領の開戦の腹は固まっていた、どうやつらを誘導するか。
    1941年8・12日 大西洋上の秘密会談(大統領はチャーチル首相に参戦を約したとされる)、
    ロバート・B・スティネット『真珠湾の真実』
    海軍情報部極東課長のアーサー・マッコラムによる8項目のメモ。
  4. ④.英国の国民投票:
     本年6月23日の国民投票にて、極めて接戦ではあったが、EUからの離脱派が勝利して、世界を驚かせた。世界同時株安が起こり、ポンドは大幅に下落した。移民の引き起こす諸々のトラブルが、離脱派が多数を占める引き金になったと分析されているが、根本にはEU本部の決定に英国の未来を委ねることへの不満と不安、経済最優先の社会の在り方に対する疑念があったと思われる。英国民は、少なくとも短期的には、経済的不利益を被ってまでも、自らの未来は自らが決定できる道を選択したと言える。
     グローバリズムの本丸と言える米英両国において、反グローバリズムの動きが顕著になってきている。
  5. ⑤.安倍首相とプーチン大統領との度重なる会談:
     両国の平和条約の締結と協力関係の確立は東アジアの情勢を大きく変える。米国の一国支配の構図を崩すことになり、また、膨張する中国に対する抑えともなる。日露の接近は米国もこれを容認。今年5月6日にはソチにて両首脳が長時間の会談を行った。
     明治維新以後の近代化を目指した日本にとって、満州・朝鮮半島の不安定とその地域に進出しようとするロシア・ソ連の南下政策による圧力とは防衛上の最大の懸念であり続け、日露戦争を始めとして何度か衝突を繰り返した。
     日露戦後、米国からの対日圧力が急速に強まる中で、1941年には日ソ中立条約を締結し、相互不可侵を約してはいたが、ソ連は1945年8月に日本のポツダム宣言の受け入れを表明する直前に、突如、一方的に不可侵条約を破棄し、満州、千島列島への軍事進攻と略奪・暴行を行った。更にソ連は、約60万人にものぼる軍人・一般市民をシベリアへ抑留して酷使し、その内6-7万人は帰らぬ人となった。また、ソ連・ロシアによる北方領土の不法占拠は今も続いている。
     この問題を棚上げしたままでは、日ロの平和条約も締結できないし、腰を据えた経済提携も実現できない。過去の歴史に区切りをつけ、未来に向けて信頼に基づく協力関係をどう築くのか。両首脳の智恵と決断に期待したい。
  6. ⑥.地球儀俯瞰外交:
     今年の4月、ベトナムのカムラン湾へ海上自衛隊の護衛艦が戦後初めて入港した。
     また、フィリピンのスービック湾にも自衛隊の潜水艦が寄港するなど南シナ海を念頭に東南アジアの国々との連携や支援を強めている。
     12億余りの人口を抱え、経済成長では中国を凌駕する勢いのインド、豪州、トルコを始めとする中近東各国、親日国家として有名なウズベキスタンやキルギスなど中央アジア諸国とも経済的、政治的、軍事的連携を強めている。
3.日本の而立への道

 而立とは、論語によれば30歳のこと。30にして、自らの判断で進むべき道を選択できるようになることを意味しているようだ。
 日米は戦後70年、安保条約を結び、少なくとも表面的には、良好な関係を維持してきた。今後も両国の安定した提携が太平洋の平和と安全に必須だが、従来の従属的関係から、対等なパートナーへと、そして日本は自らの判断で自らの未来を切り開く国へと変質して行く必要がある。困難な道だが、下記のような国際環境の変化が起こっており、序々ながら下地は整ってきている。

  1. ①.国際情勢の変化
    中国、北朝鮮の政治的不安定と周辺への軍事的脅威
    中東・アフリカ・中南米諸地域など宗教対立と政治的不安定
    欧米の進歩主義・科学万能主義の限界、経済成長、進歩偏重への反省、
    グローバリズムによる格差の拡大、弱肉強食の世界の正当化、
    金融資本による世界支配、
    資源の枯渇と環境の悪化、
    移民、難民の大量発生、
    テロの常態化などである。
     こうした諸問題は欧米による科学偏重、成長最優先の価値観に端を発しているとの反省が広がってきている。
  2. ②.世界中で宗教・民族の対立と戦闘、社会的混乱、貧困が続く中で、日本の文化や歴史に対する共感が世界的な広がりを見せているのではないか。
    観光ブーム、
    日本食ブーム、
    クールジャパンの盛り上がり、
    アニメの普及など。

     こうした表面的な現象の底には、日本の文化や歴史に対する理解の深まりがあるのではないか。日本文化の特長を思いつくままに列挙してみると、

    日本列島の中で一万年以上にわたって平和で治安のよい自給的な暮らしを送ってきた、
    自然を大切にし、森を守り、山川草木悉皆成仏の精神を育んできた、
    先祖を大切にし、伝統の継続を重んじてきた、
    相手を敬う礼儀正しさ、松前藩、日清日露の捕虜の扱い、思いやり、
    大衆を含めた知的レベルの高さ、識字率の高さ、読書好き、教養の普及、道具の手入れ、職人技、矜持、貧しい武士への尊敬
    物作りの尊重、農業技術の高さ、万能の和紙、竹など素材のいかし方、
    労働の尊重、
    美意識の高さ、暮らしの中に美がある。
  3. ③.而立に向けて日本の取るべき道
     自らの安全と生存、文化と歴史は自らの力で守るという当たり前の意識を取り戻す。憲法もさよう改める。
     自らの文化と歴史を維持・発展させることが、日本のなしうる最大の国際貢献であることを自覚せしめ、同時に自主独立の気概を育む国民教育の徹底。
     万一に備えた組織の見直し。防衛省の改編と強化など。
     戦後の安全を保障してきた日米関係を維持する。ただし、片務的・従属的関係から平等互恵の関係に変えて行く。
     地球儀俯瞰外交を推し進め、特に親日国家との提携を強化する。
     ネガティブキャンペーンを繰り返す中韓とは距離を置く。(中国の体制は遠からず転換を迫られる筈)。中韓の反日政策に呼応する日本人には猛省を促す→幕末の日本は国を売らなかった。

参考文献:
「歴史とは何か」岡田英弘
「日本の歴史 本当は何がすごいのか」田中英道
「民間が所有する中央銀行」ユースタス・マリンズ
「日米開戦の悲劇」ハミルトン・フィッシュ(共和党議員)
「世界を操る支配者の正体」馬渕睦夫
「アメリカ社会主義者が日米戦を仕組んだ」馬渕睦夫

以上

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