日本経済の再生戦略を考える
平成28年10月18日 山縣 正靖
大平さんの「グローバリゼーションの行方」2016.1.27以来、サロンでは熱心な討議が行われ、おおくの問題、課題が浮き彫りにされた。(プロジェクトリーダーの纏めに感謝しております。)例えば;日本の美しい古典、禅、仏教などを外国人に紹介できる様になってほしい。日本の美しさを知っているひとが尊敬される。英語でM&A、技術提携交渉などをできるようになってほしい。財務分析、財務予測、最近不可欠のDCFなどをマスターして。最近企業の不祥事が頻発しているが、これらを防ぐために社長の危機管理を極めてほしい。
そもそも企業人の人格教育を強化してほしい。
ただ、これらの問題、課題の多くは若い方々にぜひ勉強、習得してほしいというOBの願いがこめられていると思いますが、これだけの技能、知識をマスターしようとなると並大抵のことではない。しかし、小生の見るところ、これらの技能、知識は今流行りのAI/人工知能のテクニックによってパソコンに憶え込ませておき、会議などでスマホから呼び出せば、瞬時に必要な文章が現れる、面倒な計算が瞬時に計算され、計算結果への評価、コメントまでが現れる、といったことが可能になっています。我々の技能、知識はエキスパートシステムのレベルであり、Excelによって処理可能です。ITプロジェクトと共同でやれば、良い作品ができるのではないか、結構 売れるのではないか
と思っていますが、如何でしょうか。
さて、本日は「日本経済の再生戦略を考える」というテーマです。
小生は2016-2-18 サロン21で「最近の景気循環の変貌と経済発展.衰退段階論との接点」で日本経済の憂慮すべき現状を皆様にお知らせしましたが、今回はさらに論を進めて最新のデータにより経済不振の現状を確認するとともに、敢えて日本経済の再生戦略を提言するにいたりました。
( なお、以上の提言は最新の論文「2016~2018年の経済予測―景気循環の変貌、経済の衰退化の兆候」に発表しており、当クラブのHP表紙の右上「リンク集」-「山縣経済研究所」-「表題」 をクリックしてみることができます。)
ところが、提言しつつも実は気になってしょうがないことがある。それは日本の企業が国内の設備投資を増やしてくれるのか、どうすれば増やしてくれるのか、ということに確証がない。小生の提言の中にその案を書いてあるのですが、サロン21の場に提出してご意見、ご教示をいただきたいと思うわけです。
実はアベ.クロノミクスではインフレ期待論にもとづき金融大漢和により個人消費の増加を狙ったが、必ずしも意図どおりには動いていない。これに対して小生の提言は企業の国内設備投資の増加を狙っているのですが、日本経済はかなり追い詰められているので失敗は許されない。提言の是非を十分 討議して頂きたいと願っております。
以下 討議のためのディスカッション ポイント を示します。
1.現在の日本経済の苦境
(1)日本経済が成長しない最大の原因は企業が国内の設備投資を増やさないからである。つれて乗数効果による個人消費が増えない。
(2)企業が国内設備を増やさないのは中国、韓国などに価格競争で敗れ、国内生産を諦めて海外での設備投資を優先しているからである。
(3)国内設備投資が抑えられて価格競争力はますます劣後、国内の製造現場が不活発になると肝心の新製品の開発力も劣後してくる。
(4)国内にのこる中小企業、高齢化産業は苦闘している。
(5)新人の労働需給は改善してきたが、失われた20年で増加した非正規社員層は残されたまま。
(6)財政破綻が進行している。欧州各国も財政が悪化しているので今すぐ日本が攻撃されることはないだろうが、それにしても日本の財政の悪化は異次元である。
2.日本経済の再生戦略は必要か
日本は高齢化社会になるのだからもう成長志向する必要はない、再生戦略も不要との意見があるが、どう考えるか。
今のように価格競争力が衰え、新製品開発力も劣後するような縮小均衡型の低成長、低設備投資の経済は国民にとって好ましいものではない。特にこれから増加する高齢者の処遇を確保するためには今のうちに生産性を向上しておかねばならない。また国防で日本に圧迫を加えてくる中国は、経済面でも猛烈な価格競争を仕掛けてきて日本の国内産業は苦戦を強いられている。このまま国内設備投資が抑えられて価格競争力が衰えれば、中国に対抗することはできなくなるだろう。
3.企業が設備投資を増やさない/増やせない理由は何か。
現在企業の収益は回復し、内部資金も積み上がり、金融も大緩和である。また国内設備は経過年数は進んで価格競争力は落ちているはずである。それにもかかわらず、企業が設備投資を増やさないのは何故か?差しあたって次のような理由が考えられる。
(1)企業は国内で価格競争力を挽回することを諦めており、成り行きにまかせて事実上は安楽死待ちの業界もある。
(2)失われた20年の間に、企業が海外シフトしたので国内需要が減少して需給関係が悪化し、設備投資は出来なかった。そろそろ設備投資再開の動きも出てくるだろう。
(3)最新の設備は巨額の金額を要し、各社が各自で投資すれば供給過剰に陥る。2社とか複数社でスクラップ&ビルド方式の最新鋭設備投資が望ましいが、なかなか実現しない。
(4)ファンドがM&Aブームを煽った際、ROEの低い企業は敵対的TOBの対象になるぞという風評が広がり、リスクの大きな設備投資を抑えて自社株買いや短期的な効果を見込めるM&Aに資金を使っている。
設備投資停滞の原因は他にもあるだろう。それを補充しつつ、各々のマイナス要因を解消して企業が設備投資をし易くするのが再生戦略ではないか。
4.中小企業、高齢化産業の再生戦略
この分野は容赦なく襲ってくる海外からの価格競争に耐え、生き残りをかけて苦闘しているのが実態である。この分野は高齢者でも働ける合理化自動機器の開発と投入、新製品開発力の向上、新しい販売ルートの開設、ファイナンスなど政策的な協力が必要な分野である。地場産業の価格競争力、新製品開発力の向上をめざして各地の大学の工学部に専任講座を新設するくらいの協力体制を整備したい。理化学研究所、生産技術研究所も参加してほしいものだ。
5.日本再生のリーダーシップ
経済政策として日本経済が衰退化に陥っている事実を国民に明らかにし、「今ならまだ間に合う。再生戦略を実行するぞ」という国民的合意を形成することが肝心である。これがないと消極的になりがちな企業を「負けないぞ」という闘争型の企業に再生することはできない。
戦後日本の復興期に、吉田首相の求めに応じて政官学民の復興計画がスタートし、池田首相の所得倍増計画、田中首相の列島改造論へと引き継がれ、発展していった例がある。決して綺麗ごとだけではなかったのだが、国民にとっては画期的な貢献をもたらした経済政策であった。
今回の再生戦略は復興計画に匹敵する一大事である。政権が替わってもこの再生戦略を引き継ぎ、実行し、さらに改善していくことが望まれる。
誰が再生のスタートを切るか? リーダーシップをとるか?
6.日本経済の再生戦略(案)の提言
(1)現在の日本経済の苦境は、基本的には、企業の国内設備投資が不足しているからである。日本再生の眼目は国内設備投資の再生にある。
(2)具体的には、①価格競争力の奪回、②新製品開発力の奪回、③苦闘する中小企業、高齢化産業の生産性向上 のための設備投資を増やすことである。
(3)このままいくと日本の国内産業はどうなるか、逆に国内産業を将来も生残らすにはどれだけの設備投資の積増しを要するか、産業ごとに調査をするべきである。このような調査は実は再生戦略を国民合意の再生戦略を創るトリガーになる。2020年オリンピックまでに日本を立直すための基礎調査であると。
この調査を通じて、企業が設備投資を増やすように誘導する具体的な政策を詰めることができる。
(4)民間の努力に対して、官学ができることは多い。
- ①企業が投資をしやすい環境を整える。(例えばスクラップ&ビルド型新鋭投資への誘導、農業合理化のための旧勢力排除)
- ②日本の誇る理化学研究所、生産技術研究所、各県の工学部に価格競争力、新製品開発力の向上の専任講座を設ける。特に地場産業、農業、水産業にはこれらは助けになる。
粗案であるが、これをタタキ台としてご討議いただければ幸いです。
以上