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サロン21

日本の経済予測と問題点、および解決策のタタキ台

 本稿は向こう3年の日本の成長率を予測するともに、その間に進行する景気循環の予測、さらに近く予想される問題点を提起する。
 これらの問題点に対する解決策のタタキ台はいわば日本再生戦略の強化策なのであるが、このサロンで討議いただければ幸いである。

1 向こう3年(2017~19年)の経済予測

 向こう3年の予測を行うにあたって、まずその前の3年の経済の状況を確認しておく。2008年のリーマンショックで景気後退に陥ったあと、設備投資が抑えられた結果、需給関係の改善が進み2014年にはほぼ景気回復点に達した(稼働率100%)。
 ところがその後企業の設備投資の増勢が従来になく低いため、成長率は低く稼働率も100%前後で水平に推移するという景気回復としては従来にない変貌を示していた。(第1図)
 この変貌は 景気循環論ではハロッド、ドーマーが唱えた「上昇局面にも関わらず設備投資の増勢が低いと需要超過でもない、供給不足でもない低成長」の均衡成長経路になるという状況に近い。

 さて向こう3年の予測では、設備投資の増勢次第では均衡成長経路から脱出できるかということに興味が移る。

(1)
まず設備投資は一部企業に本国復帰、国内投資を増やす動きが出て、増勢が依然として低いが高まる傾向がでてきた。
(2)
輸出は好調、かつ円相場は110円前後で企業収益は好調である。
(3)
金融大緩和に伴う不動産ブームとオリンピック需要で不動産投資が好調。

 これらの条件を織り込んで予測システムによるシミュレーションを行うと下記の向こう3年の予測が算出される。

2015年 2016年 2017年 2018年 2019年
名目GDP 530兆円 537兆円 551兆円 566兆円 581兆円
名目成長率 3.2% 1.3% 2.7% 2.7% 2.9%
(前年予測) (4.1%) (0.7%) (1.7%) (1.0%)
実質成長率 2.8% 0.1% 2.8% 2.8% 3.0%
稼働率 98.7% 97.8% 100.0% 101.4% 102.7%

 これで見ると(1)2019年までは名目成長率2,7%程度のおだやかな成長が続く。(2)景気循環の視点からは稼働率が100%から102.7%へ穏やかに上昇するがまだ景気下降の兆候は無い。
 最大のリスクはトランプ大統領溌の貿易戦争の激化であるが、これも中間選挙の結果で消える可能性もあり、この経済予測はそのままとする所存である。
 アベノミクスは前回景気下降時の緊急避難てきな性格であり、穏やかな成長が確認されれば、日本も出口戦略に転換する方が良かろう。

2 次の景気下降は何時か。

 設備投資の増勢を(1)本見通しの穏やかなケース (2)見通しより強めのケース と2ケースをシミュレーションしたが、2021年末には景気下降に転じる予測である。「オリンピックの後には不況が来る」とのジンクス通りであるが、米国も景気循環的にはその頃が下降の時期とみられ、2021年は警戒すべき年である。政府、日銀は景気対策のメニューを準備し、企業は大型の設備投資やM&Aは先延ばしする方が良いだろう。

3 日本経済に立ちはだかる難関

 当面の日本経済は以上のとおり設備投資の増勢が低く成長率も低い不満はあるものの、それでも2020年までは緩やかな成長を続けるだろう。しかし、長期的には次のような難関がたちはだかっており、今のところこれらを改善する機運は少ない。

(1)
少子高齢化の影響が顕在化して、労働力人口の生み出す付加価値より社会福祉支出の増加の方が大きくなる。年金財政も破綻しかねない。
対策としては、高齢者がより長く価格競争力のある仕事を続けられるような新設備を提供する運動が挙げられる。
(2)
財政の赤字が続き、国際的な標準と比較して財政破綻に近づく。
対策としては、例えば増加の著しい高齢者向けの薬品のコストを理化学研究所などの協力を得て30%削減するとかAI、IOTを導入して公務員の採用を削減する、などが考えられる。
(3)
赤字国債が累増して日銀の引き受けも限界に近づき、国債消化が困難になる。日本経済そのものが衰退化すると、世界のカラ売りファンドに狙われやすくなり日本国債暴落のリスクが高まる。
対策としては、(2)の財政健全化と、日本経済が安定化したのであるから緊急避難的な日銀の国債引き受けによるマネー供給を絞る(出口戦略)に転換する。
(4)
価格競争力の劣化と製品開発力の劣化が続いている。
日本企業は国内の価格競争力が劣後したのでよりコストの低い海外投資とM&Aを優先して国内投資を抑えている。これは国内の価格競争力のさらなる劣後と製品開発力の劣後という悪循環を引き起こす。 しかし、最近は海外進出のリスクとM&Aの成功が少ないことが認識されて、国内復帰の動きも出てきた。
対策としては、政府は一定の国内設備投資をふやすことを推奨すべきである。トランプ大統領も自動車メーカーに国内投資をツイッターしているのだ。日本は自由主義の国であるから政府は民間企業に命令することはできないが、たとえば株式購入は一定以上の国内投資をする企業に限る適格制度、財政支出の購入先にも適格制度を導入する、理化学研究所や国立大学などに価格競争力の奪回に特化する講座を新設して民間企業や中小企業をバックアップする、など政府のできることは多い。
(5)
帝国主義化して猛威を振るう中国にどう対応するか。 中国には日本も米国もインドも経済競争、軍事競争ともに押されっぱなしであり、地政学的にも驚くべき構想で拠点を奪われている。このまま 数年間中国のやりたい放題でやられたら、最早 ての打ちようがない状態になるのではないか。 対策はあるか? サロンで討議するのも一興であろう。 ちなみにチャーチルがスターリンのソ連に対して敷いた戦略は、①自由主義諸国の連合を結成し、②連合国の間では自由貿易による繁栄③ソ連側には貿易制限、技術の流出禁止、であった。

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